お金と幸せの話

She is 2018年9月特集: 「お金と幸せの話」公募VOICE

こんにちは
自問自答ファッション通信です。今回はファッションがテーマではなく、お金の話です。このコラムは、とっても素敵なWEBサイト、she isさんの「お金と幸せの話」公募VOICEに寄せて書かせて頂いたものですが、今回は掲載ならずでしたので自身ののHPに掲載させていただきます。また応募させていただきます!

“She is”は、自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティです。

【お父さんが教えてくれた金融道】

私が小学5年生だった時のある日、お父さんが私と兄を居間に呼び出した。
お父さんはいつになく真剣な面持ちで、渦だかく積み上げた「ナニワ金融道」のコミックスをぐっと差し出し、「とにかくすぐにこれを読みなさい」と言った。
私の父は変わり者だ。彼は生まれてこのかた、私が知る限りではひと時も真剣な瞬間がなく、毎日会社をサボって夕方4時には帰ってきてずっとヌード写真集を見続けるような人だった。
お酒を飲まず、タバコを吸わず、博打もしなかったがアイスを1日3個以上食べ、横になり週刊誌と漫画を読み続けている。
昼寝とテレビをこよなく愛し、家族のこともほどよく愛し、真面目なことは一つも言わずいつも笑っている人だった。
そんなふざけた父が、初めて真剣な顔で子供に何かを伝えようとしている。
私と兄は佇まいを直し、正座でナニワ金融道をむさぼり読んだ。
漫画好きの両親のDNAをしかと受け継いだ我々兄妹は、どんな漫画でも楽しく読める特技を生まれながらにして授けられていたので、独特な絵も、エグい内容も、かなり楽しめた。
借金で苦しむ人達の様子が色々な角度から描かれたその漫画は、今まで読んできたキラキラの少女漫画とは違い、愛と勇気と友情の少年漫画とも違い、明らかに異質でショッキングな衝撃を与えてくれた。
漫画の裏表紙にはいつものように書籍購入のレシートが貼られていて、父曰くこれは「万引きしたわけでは無い証明」だそうで、紙製のカバーが掛けられているのは、「いざという時、表紙についた指紋を悪用されないため」だそうだ。
鼻をかむときも、爪を切るときも、抜け毛を捨てるときも「外にDNA情報が漏れてしまうな…」と呟きながら細かくして捨てる。
名前を書く際は必ず特製の緑のインクで万年筆で書き、「俺が書くのはこのインクだけだから、悪者に複製されても証明できるからな」と、聞いた人の頭に疑問符を浮かばせる、本気なのかギャグなのか分からない自論を述べていた。
学校に提出する書類も緑色のインクで書くので、「変わり者の親だとバレるんじゃ無いか」と思春期の私はいつももどかしく、下向き具合に生活していた。
読み終わった頃に父は厳かに「どうだった?」と聞きにきた。私と兄はニコニコしながら「面白かった!」と答えた。
父はガハハと笑いながら私たちに復唱させた。

「実印は押さない!」
「保証人にはならない!」
「借金はしない!」
「あんまり簡単に人を信じない!」

私は母から得た「超スーパーポジティブ」の遺伝子のおかげで実に奔放に青春を過ごした。欲しいものはお金を気にせず買っていたし、本にレシートを貼らなかったし、カバーも付けなかったし、鼻をかんだティッシュも、爪も、抜け毛も普通に捨てた。
市販の黒のボールペンで署名をした。
しかし、絶対に借金だけはしなかった。
父に復唱させられた呪いじみた「誓い」は、かなりじんわりと私の人生に影響し、タカラトミーの「人生ゲーム」の中でさえ借り入れができなかったし、社会に出て実印を押すのも手が震えるような感触があったし、リボ払いという字を見つけた日には頭痛がしたし、お財布を忘れた日でも人にお金を借してと言えず、水を飲んで凌いだ。
大人になってから聞けば、父方の祖父は知人の借金の保証人になりかなり苦しんでいた過去があるそうで、父にもそのトラウマがあったらしい。
借金がなくなってからは、アイスをたらふく食べて、漫画を読んで父なりに楽しく安心してぐうたらライフを送れた実績があるので、子供にもお金にまつわる辛い思いはさせたくないと思っていたらしいのだ。
「ナニワ金融道を読みなさい」は、父が子供に残した唯一の教育だったし実際に救われたことがたくさんあった。(物事をややナナメに見る目が育ったのは否めないが)

私と兄は、おそらく今後もカードローンなど手を出したりしない。
家や車など大きな買い物をするときも、自動的にナニワ金融道の一コマを思い出し、独特のタッチのキャラクターよろしく、汗をダラダラと流すだろう。そして父の言動を思い出し、小さく温かく笑うだろう。
これは幸せな呪いであり、不器用な父が残したひとつの愛の形だと思う。
お金で愛は買えないが「風変わりなお金に関しての教育」が我々に与えた「不器用な大きな愛」に守られてこれからも幸せに生きていくのだ。

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